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札幌地方裁判所 平成元年(ワ)372号 判決

本訴原告(反訴被告) 株式会社 エスコリース

代表者代表取締役 平山秀雄

訴訟代理人弁護士 荒谷一衞

鷹野正義

訴訟復代理人弁護士 山口均

本訴被告(反訴原告) 株式会社 京萌工芸(旧商号 有限会社岡田紋匠)

代表者代表取締役 岡田辰雄

本訴被告 岡田智三

本訴被告ら訴訟代理人弁護士 矢野修

主文

一  本訴原告(反訴被告)の本訴被告らに対する請求をいずれも棄却する。

二  本訴原告(反訴被告)は、本訴被告(反訴原告)に対し、金五五万円及びこれに対する昭和六一年六月一一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、本訴反訴を通じ、本訴原告(反訴被告)の負担とする。

四  この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(本訴関係)

一  請求の趣旨

1 本訴被告らは、本訴原告(反訴被告)に対し、連帯して六〇五万円及びこれに対する昭和六一年九月二三日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は、本訴被告らの負担とする。

3 1につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 主文第一項と同旨

2 訴訟費用は、本訴原告(反訴被告)の負担とする。

(反訴関係)

一  請求の趣旨

1 主文第二項と同旨

2 訴訟費用は、本訴原告(反訴被告)の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 本訴被告(反訴原告)の請求を棄却する。

2 訴訟費用は、本訴被告(反訴原告)の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴関係)

一  請求原因

1(一) 本訴原告(反訴被告、以下「原告」という。)は、機械及び車両等のリースを主たる事業目的とする株式会社である。

(二) 本訴被告(反訴原告)株式会社京萌工芸(以下「被告会社」という。)は、繊維製品の紋加工及び紋入れを主たる事業目的とする株式会社である。

2 原告は、被告会社との間で、昭和六〇年一二月六日、ミロクMS―TWO一台(以下「本件機械」という。)を原告が被告会社に次の約定でリースする旨のリース契約(以下「本件リース契約」という。)を締結し、被告会社に対し、昭和六一年一月末ころ、本件機械を引き渡した。

(一) リース期間 昭和六一年二月二〇日から昭和六六年二月一九日まで

(二) リース料 月額一一万円

総額六六〇万円

初回金一一万円 ただし第一月分に充当

(三) 支払方法 初回金 昭和六一年一月三一日

第二回以降 昭和六一年三月一〇日から昭和六六年一月一〇日まで五九回に分割して毎月一〇日限り支払う。

(四) 特約 (1) 被告会社がリース料の支払を一回でも怠ったときは、原告は、催告を要しないで本件リース契約を解除することができる。

(2) 本件リース契約が解除されたときは、被告会社は、原告に対し、直ちに、本件機械を返還するとともに、損害金として残リース料相当額を支払う。

(五) 遅延損害金 被告会社が本件リース契約上の金銭債務の履行を怠ったときは、被告会社は、原告に対し、年一四・六パーセントの割合による遅延損害金を支払う。

3 本訴被告岡田智三は、原告に対し、昭和六〇年一二月六日、被告会社が本件リース契約上原告に対して負担する一切の債務につき連帯保証した。

4 被告会社は、原告に対し、昭和六一年一月三一日から同年六月一〇日までの間に本件リース契約に基づくリース料として合計五五万円(五か月分)を支払ったが、同年七月分以降のリース料を支払わない。

5 そこで、原告は、被告会社に対し、本件リース契約の特約に基づき、昭和六一年九月二二日、本件リース契約を解除する旨の意思表示をした。

よって、原告は、被告らに対し、本件リース契約に基づく約定損害金として、リース料総額六六〇万円から既払の五五万円を控除した残額六〇五万円及びこれに対する本件リース契約解除の日の翌日である昭和六一年九月二三日から支払済みまで約定の年一四・六パーセントの割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実のうち、原告と被告会社が本件リース契約を締結したこと(ただし、目的物件を除く。)、昭和六一年一月末ころ本件機械の引渡しがされたこと、及び、本件リース契約の約定中(一)ないし(三)は認め、その余は否認する。

本件リース契約の目的物件は、本件機械のほか、これに使用するためのソフトウエア(基本システム、及び、被告会社が行う繊維製品の紋加工・紋入れの業務の受注管理・売上管理等に使用するための特別注文の受注・売上システム、以下「ソフト」という。)をも含むものである。

なお、本件リース契約は、その経済的実体からみて、商品及びこれに付帯する役務の割賦販売契約と解すべきものである。

3 同3の事実は認める。

4 同4の事実は認める。

5 同5の事実のうち、本件リース契約解除の意思表示がされたことは認め、その余は否認する。

三  抗弁

1 原告の債務不履行

(一) 本件リース契約上の債務不履行

原告には、本件リース契約上の債務不履行がある。

(1) 本件リース契約の目的物件は、本件機械のほか、これに使用するためのソフトを含んでいる。

すなわち、被告会社は、本件リース契約を締結するにあたり、株式会社ミロク経理(以下「ミロク経理」という。)との間でリース物件の選定を行ったのであるが、その際被告会社は、被告会社の業態や従来の管理の内容をミロク経理に説明したうえ、その受注管理、納品書・請求書の発行、売上管理に適するコンピューターを発注し、これに応じてミロク経理も、被告会社の使用目的に合わせたソフトを独自に開発する旨約し、その結果本件リース契約に至ったものである。また、本件に限らず、一般的にみても、ミロク経理がユーザーとの間でしたリース契約におけるリース物件は、ソフトが一体となっている。したがって、本件リース契約書上は、リース物件として本件機械のみが記載されていて、ソフトを含んだような記載にはなっていないが、本件リース契約がソフトをも含んだ契約であることは明らかである。

(2) 本件リース契約が動産の賃貸借契約であるのか、それとも動産の割賦販売契約であるのかは必ずしも明らかではない。しかし、そのいずれであるにせよ、原告は、本件リース契約上、その目的物件である本件機械及びこれに使用するためのソフトの双方を被告会社に引き渡し、かつこれらを被告会社に使用させるべき債務を負っている。

(3) ところが、ミロク経理は、昭和六一年一月末ころ被告会社に本件機械を引き渡したものの、ソフトについては未開発のまま推移し、被告会社に本件機械の使用法すら指導しないでいるうち、同年八月事実上倒産し、同年九月には破産宣告を受けた。したがって原告は、本件リース契約の本旨に従った債務の履行をしておらず、しかも、ミロク経理が倒産した以上、原告が今後右債務の履行をすることは不可能になったというべきである。

(二) 信義則上の債務不履行

仮に、原告が本件リース契約上ソフトの引渡義務を負っておらず、したがって、その点に関する債務不履行がないとしても、原告には、次のとおりの債務不履行がある。

(1) ミロク経理は、被告会社との間で、小型電子計算機装置の導入利用に関する契約を締結し、右契約上被告会社に対し、本件機械及びこれに使用するためのソフトを引き渡したうえ、これを被告会社に使用させる債務を負っていた。

(2) 原告は、ミロク経理との間で、少なくとも昭和五七年ころから緊密な業務提携契約を締結していた。そして原告は、右契約に基づいて、リース契約に関する一切の書類をミロク経理に保管させ、契約の締結及びその変更等に関する手続全般にわたってミロク経理に権限を授与し、ミロク経理から持ち込まれたリース契約の決裁にあたっても、自らユーザーの信用調査をすることなく、ミロク経理の信用調査のみに信を措いていた。

このように、原告とミロク経理とは、密接な業務提携関係にあり、ミロク経理関係の与信業務については実質的・経済的に一体とみるべき実態を継続的に有していた。

(3) 右(2)のような原告とミロク経理との関係からすれば、原告としては信義則上、ユーザーである被告会社に対し、ミロク経理が被告会社に対して負っている右(1)の引渡義務を直接負うものというべきである。

ところが、ミロク経理は、前記(一)(3)のとおりの事情で、被告会社に対する右(1)の債務を履行しないまま倒産した。よって、原告もまた右の信義則上の引渡義務を履行しなかったことになる。

(4) 仮に右(3)が認められないとしても、右(2)のとおり原告とミロク経理が密接な提携関係を有していたことを考えると、少なくとも原告としては、被告会社を含むユーザーに対し、ミロク経理のユーザーに対する商品引渡義務が完全に履行されるよう、常に、ミロク経理の信用及び財産状態のほか、その販売方法等につき調査・監督すべき信義則上の義務を負っていたものというべきである。

しかるに、ミロク経理が被告会社に対する債務を履行しないまま倒産するに至ったのは、原告が右の信義則上の義務の履行を怠ったことによるものである。

2 ミロク経理の債務不履行と原告に対する対抗

(一) ミロク経理は、被告会社との間で、小型電子計算機装置の導入利用に関する契約を締結し、右契約上被告会社に対し、本件機械及びこれに使用するためのソフトを引き渡したうえ、これを被告会社に使用させる債務を負っていた。

ところが、前記のとおり、ミロク経理は右債務を履行しないまま倒産するに至った。

(二) 次のいずれかの理由により、被告会社は、ミロク経理の債務不履行を原告に対して主張することができる。

(1) 原告とミロク経理とは前記のとおりの提携リース契約関係にあって、原告は、ミロク経理に対し、ユーザーとのリース契約手続全般について原告に代わって行為をする権限を授与しており、ミロク経理は原告の代理人たる立場にあった。

(2) 本件のような提携リース契約は、販売店からリース会社が物件を購入する契約と、販売店からユーザーが物件の使用収益権を購入する契約とを基本とし、さらに、後者に関してリース会社が使用収益権の購入資金を立替払し、ユーザーがその立替金をリース料として割賦返済するという契約の三つの契約が密接不可分に結合した契約であると解され、その法的性質は割賦販売契約と極めて類似している。したがって、割賦販売法の抗弁の接続に関する規定は、本件リース契約にも適用又は類推適用されるべきである。

(3) 前記のような原告とミロク経理との密接な関係にかんがみると、ユーザーたる被告会社は、信義則上原告に対し、ミロク経理の債務不履行を主張することができると解すべきである。

3 錯誤による無効

仮に本件リース契約の目的物件が、ソフトを含まない本件機械のみであったとすれば、本件リース契約は、被告会社の要素に関する錯誤により無効である。

すなわち、本件リース契約の目的物件はソフトを含まない本件機械のみであるにもかかわらず、契約当時被告会社は、ソフトも目的物件に含まれるものと誤信した。本件機械は、ソフトを伴うことなしには有効に使用することができないものであるから、本件リース契約は被告会社の右錯誤により全部無効となる。

4 原告の権利濫用

前記のとおり、ミロク経理は昭和六一年八月に事実上倒産し、同年九月に破産宣告を受けたものであるが、同月の手形決済資金に不足をきたすことが判明した時点で、当時最大の提携リース契約先であるとともに融資等も依頼するという密接な関係にあった原告に資金援助を依頼した。ところが、この依頼を受けた原告は、直ちに調査を開始したものの、その後漫然と時間を費やしてミロク経理に手形不渡を出させたのみならず、ミロク経理を欺罔してその所持する現金、有価証券等を不当に持ち去り、ミロク経理の業務の遂行を不可能にさせた。そして、その結果当然に、ミロク経理のユーザーに対するソフトの供給も途絶えることになった。

このように、原告自らミロク経理の倒産に重大な関与をしてユーザーに著しい損害を与えておきながら、他方でユーザーである被告会社に対して契約上の債務の履行を求めることは、権利の濫用に当たり許されないというべきである。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁1について

(一) 抗弁1(一)(1)の事実のうち、本件リース契約書にリース物件としてソフトの記載がないことは認め、被告会社とミロク経理との交渉経過については知るところでなく、その余は否認する。

(二) 同(一)(2)は争う。

(三) 同(一)(3)の事実のうち、ミロク経理が昭和六一年一月末ころ被告会社に本件機械を引き渡したこと、ミロク経理が同年八月事実上倒産し、同年九月破産宣告を受けたことは認め、その余は否認する。

(四) 同(二)(1)の事実は知らない。

(五) 同(二)(2)の事実のうち、原告がミロク経理に対して六枚一綴になったリース契約関係書類を保管させていたことは認め、その余は否認する。

(六) 同(二)(3)は争う。

(七) 同(二)(4)は争う。

2 抗弁2について

(一) 抗弁2(一)の事実のうち、ミロク経理が倒産したことは認め、その余は知らない。

(二) 同(二)は争う。

3 抗弁3の事実は否認する。

4 抗弁4の事実のうち、ミロク経理の事実上の倒産及び破産宣告については認め、その余は否認し、その主張は争う。

五  再抗弁

1 本件リース契約には、被告会社は、リース物件につき完全な状態で引渡しを受けたことを確認し、リース物件の瑕疵については一切被告会社とミロク経理との間で解決するものとし、原告に対しては一切の請求をしない旨の約定がある。したがって、仮に本件リース契約の目的物件としてソフトが含まれていたとしても、被告会社は、ソフトの引渡しがないこと、或いは、ソフトに瑕疵があることをもって、原告に対抗することができない。

2(一) 本件リース契約には、被告会社は、納入されたリース物件を確認したうえ、リース料の初回金を支払う旨、右初回金の支払をもってリース期間の開始日とする旨の約定がある。すなわち、被告会社は、初回金の支払により、原告に対してリース物件の完全な引渡しを受けた旨を表示することになる。

(二) 被告会社は、原告に対し、昭和六一年一月三一日、本件リース契約に基づく初回金として一一万円を支払った。

(三) したがって、仮に本件リース契約の目的物件の中にソフトが含まれていたとしても、被告会社としては、初回金を支払っている以上、その引渡しのないことを主張することは許されない。

六  再抗弁に対する認否と被告らの反論

1 再抗弁1は争う。

2 同2の事実のうち、(二)は認め、その余は争う。

3 原告とミロク経理との提携関係ないし実質的・経済的な一体性、コンピューターシステムの引渡しの検査の困難さ等のほか、割賦販売法の趣旨にも照らすと、原告主張の免責に関する約定は公序良俗に反して無効であり、又は原告が右約定を主張することは、信義則上許されない。

(反訴関係)

一  請求原因

1(一) 原告は、機械及び車両等のリースを主たる事業目的とする株式会社である。

(二) 被告会社は、繊維製品の紋加工及び紋入れを主たる事業目的とする株式会社である。

(三) ミロク経理は、コンピューターシステム等の販売を主たる事業目的とする会社である。

2 ミロク経理と被告会社は、昭和六〇年一二月四日、被告会社の行う繊維製品の加工・紋入れの業務の受注管理、売上管理等に使用するためのコンピューターシステムの導入利用に関して次の契約を締結した。

(一) 商品 本件機械及びソフト(基本システムと受注・売上システム)

(二) 代金額 五一〇万円

(三) 導入方法 昭和六一年二月一日からミロク経理の指定するリース会社との間でリース取引を行う。

(四) 特約 ミロク経理は、受注・売上システムの開発及び本件機械の使用方法の指導を通じて、本件機械及びソフトが被告会社の業務遂行のため有効に機能するように調整し、これが有効に機能しないときは、いつでもリース取引の解約に応じる。

3 被告会社は、原告との間で、昭和六〇年一二月六日、右2の契約に基づき、次の内容の本件リース契約を締結した。

(一) リース物件 本件機械及びソフト(基本システムと受注・売上システム)

(二) リース期間 昭和六一年二月二〇日から昭和六六年二月一九日まで

(三) リース料 総額六六〇万円

月額一一万円

4 ミロク経理は、右2の契約及び本件リース契約に基づき、被告会社に対し、昭和六一年一月末ころ、本件機械を引き渡したが、ついにソフトの引渡しをしないまま、同年八月事実上倒産し、同年九月破産宣告を受けた。

したがって、被告会社はコンピューターシステムの全部を全く使用することができなかった。

5 被告会社は、原告に対し、同年一月三一日から同年六月一〇日までの間、リース料合計五五万円(五か月分)を支払った。

6 原告の債務不履行

本訴関係の「抗弁」1のとおり。

7 被告会社は、原告に対し、右債務不履行を理由に反訴状をもって本件リース契約を解除する旨の意思表示をし、反訴状は平成元年三月六日原告に送達された。

8 錯誤による無効(予備的主張)

本訴関係の「抗弁」3のとおり。

よって、被告会社は、原告に対し、主位的に本件リース契約解除による原状回復請求権に基づき、予備的に不当利得返還請求権に基づき、既払のリース料相当額五五万円及びこれに対するリース料の最終支払日の翌日である昭和六一年六月一一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実は知らない。

3 同3の事実のうち、被告会社と原告との間で昭和六〇年一二月六日本件リース契約が締結されたこと、及びその契約内容の(二)、(三)は認め、その余は否認する。

本件リース契約の目的物件は、本件機械のみである。

4 同4の事実のうち、ミロク経理が被告会社に昭和六一年一月末ころ本件機械を引き渡したこと、ミロク経理が同年八月事実上倒産し、同年九月破産宣告を受けたことは認め、その余は否認する。

5 同5の事実は認める。

6 同6に対する認否は、本訴関係の「抗弁に対する認否」1のとおり。

7 同7は争う。

8 同8の事実は否認する。

三  抗弁

本訴関係の「再抗弁」のとおり。

四  抗弁に対する認否と被告会社の反論

本訴関係の「再抗弁に対する認否と被告らの反論」のとおり。

第三証拠《省略》

理由

第一本訴関係

一  請求原因1の事実は、当事者に争いがない。

二  《証拠省略》によれば、次の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

1  原告と被告会社は、昭和六〇年一二月六日、原告をリース会社、被告会社をユーザーとして、本件リース契約を締結した(この事実は、当事者間に争いがない。)。

2  本件リース契約には、次の約定がある((一)ないし(三)の約定については、当事者間に争いがない。)。

(一) リース期間 昭和六一年二月二〇日から昭和六六年二月一九日まで

(二) リース料 月額一一万円

総額六六〇万円

初回金一一万円 ただし第一月分に充当

(三) 支払方法 初回金 昭和六一年一月三一日

第二回以降 昭和六一年三月一〇日から昭和六六年一月一〇日まで五九回に分割して毎月一〇日限り支払う。

(四) 特約 (1) 被告会社がリース料の支払を一回でも怠ったときは、原告は、催告を要しないで本件リース契約を解除することができる。

(2) 本件リース契約が解除されたときは、被告会社は、原告に対し、直ちに、本件機械を返還するとともに、損害金として残リース料相当額を支払う。

(五) 遅延損害金 被告会社が本件リース契約上の金銭債務の履行を怠ったときは、被告会社は、原告に対し、年一四・六パーセントの割合による遅延損害金を支払う。

3  原告は、被告会社に対し、昭和六一年一月末ころ、本件リース契約の目的物件ないしその一部である本件機械を引き渡した(この事実は、当事者間に争いがない。)。

三  そこで、本件リース契約の目的物件にソフトを含むか否かについて判断する。

1  前記認定事実のほか、《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

(一) 被告会社は、ミロク経理との間で、昭和六〇年一二月四日、被告会社の行う繊維製品の加工・紋入れの業務の受注管理、売上管理等に使用するためのコンピューターシステムの導入利用に関し、次の内容の契約を締結した。

(1) ミロク経理は、被告会社に対し、本件機械及びこれに使用するためのパッケージシステム(ソフト)を有償で提供し、被告会社はこれを導入し利用する。

(2) 商品の価格は、本件機械が二九八万円、ソフトについては、基本システムが一五万円、特別注文の受注・売上システムが一九七万円で、合計で五一〇万円とする。

(3) 導入方法としては、被告会社が、被告会社又はミロク経理の選定するリース会社との間でリース契約を締結する方法による。

(二) 被告会社は、右契約に基づき、ミロク経理が指定したリース会社である原告との間で、同月六日、本件リース契約を締結した。本件リース契約のリース料総額は、ミロク経理との間の右契約上の商品価格合計五一〇万円に、所定の算式によって算出した原告の手数料を加えて、六六〇万円とされた。

(三) 原告とミロク経理とは、昭和五九年一〇月一日、次の内容の業務提携契約を締結した。

(1) 原告がリースする物件は、ミロク経理の販売する商品のうち、原告がリースに適当と認める全商品とする。

(2) ミロク経理がユーザーからリースの引き合いを受けたときは、原告所定のリース契約書に必要事項を記載し、ユーザー等に署名、記名捺印させたうえ、原告に申し込む。

(3) 原告は、特別の事情がない限り、右の申込みすべてについてリース契約を引き受ける。

(4) 本提携によるリース契約に適用するリース料率は別表(省略)のとおりとする。

(5) ユーザーのリース料の支払遅滞が発生したときは、原告はミロク経理に対して書面でその旨通知し、遅滞が三回に及んだときは、原告はユーザーとのリース契約を解除し、ミロク経理は原告に対し、所定の算式により算出された金額について、ユーザーの債務を連帯保証する。

(四) 本件リース契約締結当時においても、原告とミロク経理との間では右内容の業務提携契約が継続されていた。

(五) 原告は、右業務提携契約に基づき、六枚一綴のリース契約関係書類一式(リース契約申込書、リース契約書その他が複写式になったもの)をあらかじめミロク経理に保管させていたものであり、ユーザーとリース契約を締結する際には、ミロク経理に、右書類に必要事項(リース物件欄を含む。)を記入させて、契約申込みを受けていた。

(六) ミロク経理は、リース物件の中にソフトを含む場合であっても、リース契約書のリース物件欄には機器本体のみの表示しかしないことがあった。

(七) 原告は、リース対象商品であるコンピューターの各機種ごとの販売価格についてミロク経理から報告を受けていた。したがって、少なくともミロク経理からユーザーへの販売価格の中に高額のソフトの価格が含まれているような場合には、原告がそのことを認識することは容易であった。

2  以上の事実によれば、(1)リース契約書のリース物件欄の記入のしかた如何(とくに、ソフトを含めた記載をするか否か)については、ミロク経理の判断に委ねられていたこと、(2)ミロク経理としては、リース物件欄の記入にあたり、リース物件の中にソフトを含むか否かを十分念頭に置いた記入をしたわけではないこと、(3)原告においても、業務提携契約上の対象外の商品でない限り、リース契約締結にあたってリース物件欄の記入事項にさほど関心をもっておらず、リース物件の中にソフトを含むか否かについてはミロク経理の意思に委ねていたこと、これらの事実を推認することができる。そして、本件の場合、ミロク経理においても被告会社においてもリース物件の中にソフトをも含む意思であったことは、前認定の被告会社とミロク経理との間の契約内容及びリース料総額とその内訳からして明らかである。そうすると、本件リース契約書のリース物件欄の記載(右の欄にソフトの記載がないことは、当事者間に争いがないところである。)如何にかかわらず、本件リース契約の目的物件にはソフトを含んでいるものと解するのが相当である。

四  そこで、抗弁1について判断する。

1  一般にリース契約が、リース会社を賃貸人、ユーザーを賃借人とする賃貸借契約の側面を有していることは否定できないところであり、本件リース契約においても、被告会社において目的物件の引渡しを受けたことを確認したうえでリース料を支払い、リース期間が開始するものとされていること、リース期間が満了したときや契約が解除されたときには、被告会社は原告に対し目的物件を返還すべきものとされていること(これらの事実は、《証拠省略》により認められる。)など、原告に目的物件の引渡義務があることを前提とする約定が設けられていることにも照らすと、本件リース契約上原告は、被告会社に対し、目的物件である本件機械及びこれに使用するためのソフトの引渡義務を負っているものというべきである。

2  本件機械が昭和六一年一月末ころミロク経理から被告会社に引き渡されたことは、当事者間に争いがない。しかし、ソフトに関しては、《証拠省略》によれば、本件機械が引き渡された時点では未開発であったこと、ミロク経理の担当者は、昭和六一年三月ころから同年七月ころにかけて何度か、開発途上のソフトを被告会社に持ち込んで本件機械の試運転をしたものの、思うように作動せず、したがって本件機械は使用不可能な状態で放置されていたところ、ミロク経理は、本件機械に使用可能なソフトの開発を行わないまま、同年八月に事実上倒産し、同年九月には破産宣告を受けるに至ったことが認められ(ミロク経理が同年八月事実上倒産し、同年九月に破産宣告を受けたことは、当事者間に争いがない。)、この認定を左右するに足りる証拠はない。

これらの事実によれば、結局本件リース契約の目的物件のうちソフトについては、被告会社に対する引渡しが全くなかったものと認めるべきであり、その結果被告会社は、引渡しを受けた本件機械を含めて、コンピューターシステム全部を全く利用することができなかったものと認められる。

五  そこで、すすんで再抗弁について判断する。

1  《証拠省略》によれば、本件リース契約書には、被告会社はリース物件について検査を遂げ、完全な状態で引渡しを受けたことを確認する旨、及び、よって原告はリース物件の瑕疵について一切の責めを負わず、隠れた瑕疵があったときも、被告会社はミロク経理との間でその解決を行い、原告に対しては一切の請求をしない旨の免責条項が存することが認められる。

しかしながら、右条項の有効性自体に関する判断はさておくとして、少なくとも右条項は、リース物件の引渡しがあったことを前提としたうえ、当該物件に瑕疵のあることが判明した場合に関する約定であって、リース物件の引渡しそのものがされていない場合にまで、原告として何らの責任を負わない旨を定めたものではないと解するのが相当である。そのように解するのでなければ、原告の物件引渡義務そのものを否定することにつながり、極めて不合理であるからである。そして本件の場合、リース物件であるソフトの引渡しそのものが全くなかったと認めるべきことは前記のとおりである。したがって、原告主張の免責条項の存在を理由に、原告が引渡義務不履行の責任を負わないということはできない。

2  原告は、被告会社としては、リース料の初回金を支払ったことにより、リース物件の完全な引渡しを受けた旨を原告に表示したことになるから、被告会社がその後において、リース物件の引渡しのないことを主張することは許されないと主張する。そして、《証拠省略》によれば、原告と被告会社との間で、被告会社において、納入されたリース物件の数量・仕様・性能・品質等を確認したうえでリース料の初回金を支払うべきものとし、右支払をまってリース期間が開始する旨の約定がされたこと、本件と同種のリース契約の場合、一般に原告は、ユーザーからの初回金の支払をもってリース物件の引渡しがされたことを確認していること(すなわち、原告としては、右初回金の支払をもって物件借受書に代わるものと理解していること)が認められ、また、被告会社が原告に対し、昭和六一年一月三一日本件リース契約に基づくリース料の初回金を支払ったことは、当事者間に争いがないところである。

しかしながら、原告の右主張は採用することができない。その理由は、次のとおりである。

(一) 原告とミロク経理とは、既に認定したとおりの緊密な業務提携関係にあったものである。この点にかんがみると、このような提携関係にないファイナンス・リースの場合に比較し、原告としては、リース物件のユーザーへの引渡しの有無やコンピューターの各機種に応じたソフトの開発状況等につき、提携関係にあるミロク経理を通じて容易に確認することができたし、また、確認すべきものであったと考えられる。そうであるのに、本件において原告は、被告会社から初回金の支払があったとの一事により、安易に、引渡しがされたものとみなす旨の措置をとったものである。

(二) 検収確認者の署名捺印を徴求するなど体裁の整った物件借受書による確認等に比較し、ユーザーからの初回金の支払をもってリース物件の引渡しを確認するという方法が、確認方法として極めて形式的で不確実なものにすぎないことは明らかである(一般のユーザーが、初回金の支払のもつ意味を十分認識しないまま、単にリース契約上自己が負担している債務であるとだけ考えて、初回金を支払ってしまうという事態の起こりうることは、当然に予想されるところであるし、また、販売店等ユーザー以外の者による初回金の支払という事態も予想される。)。それにもかかわらず、原告があえてこのような形式的で不確実な確認方法を採用した以上、これによって生じることのあるべき危険をユーザーに負担させることは、たとえばユーザーが販売店と共謀して架空リースを仕組んだなどユーザーの側に相当の帰責事由のある場合を除き、許されないというべきである。

(三) 《証拠省略》によれば、被告会社は、ソフトの開発には二、三か月かかるとの本件リース契約時におけるミロク経理の担当者の言を信じ、また、その後もミロク経理の担当者によるソフトの開発作業が続けられていたことから、本件機械の引渡しを受けた後昭和六一年六月一〇日までの間、合計五か月分のリース料を支払っていたが、ミロク経理の倒産によりソフトの開発が不可能になったことが判明した時点で右支払を停止し、原告にもその旨を通知した。右によれば、被告会社には、初回金の支払のもつ意味を十分認識していなかった点を除けば(そして、ユーザーの側におけるこのような過誤が当然に予想されるものであることは、前記のとおりである。)、格別の帰責事由は認められないというべきである。

(四) これらによると、原告としてはリース物件の引渡しの確認義務を怠ったものというべきであり、他方、被告会社の側に格別の帰責事由が認められない以上、被告会社による初回金の支払を根拠に原告が引渡義務の不履行責任を免れようとすることは、信義則に照らして許されないものというべきである。

六  以上のとおりであって、原告の物件引渡義務が履行されない限り、被告会社のリース料不払は正当なものであるから、原告が被告会社の右不払を理由に本件リース契約を解除することはできない。そうすると、その余の点を判断するまでもなく、原告の被告らに対する本訴請求はいずれも失当であるということになる。

第二反訴関係

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  同2の事実(ただし、(四)の点を除く。)が認められることについては、本訴関係三1(一)のとおりである。

三  同3の事実は、本件リース契約の目的物件の点を除いて当事者間に争いがなく、右物件にソフトが含まれることについては、本訴関係三のとおりである。

四  同4の事実のうち、ミロク経理が被告会社に昭和六一年一月末ころ本件機械を引き渡したこと、ミロク経理が同年八月事実上倒産し、同年九月破産宣告を受けたことは、当事者間に争いがなく、その余の事実が認められることについては、本訴関係四2のとおりである。

五  同5の事実は、当事者間に争いがない。

六  同6の事実及び原告の抗弁事実についての判断は、本訴関係四、五のとおりである。

七  被告会社が原告に対し、原告の債務不履行を理由に反訴状をもって本件リース契約を解除する旨の意思表示をしたことは、当裁判所に顕著であり、反訴状が平成元年三月六日原告に送達されたことは、本件記録上明らかである。

なお、既に認定したところによれば、原告の被告会社に対するリース物件引渡義務がもはや履行不能になったことは明らかであるから、被告会社は、原告に対して改めて履行の催告をすることなく、本件リース契約を解除することができるというべきである。

八  以上によれば、被告会社の主位的請求は理由があることになる。

第三結論

以上のとおりであるから、原告の被告らに対する本訴請求をいずれも棄却し、被告会社の反訴請求(主位的請求)を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石井寛明)

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